独立行政法人理化学研究所は、ヒトES細胞、iPS細胞など(ヒトES細胞など)の多能性幹細胞の培養を難しくしている高頻度の細胞死のメカニズムを分子レベルで解明し、細胞培養の効率化と安全性を向上させる技術を開発した。
ヒトES細胞などの培養は、マウスES細胞の培養と比べて技術上の障壁が高く、それが研究開発を遅らせる要因となっていた。例えば、ヒトES細胞などは、細胞を1つずつバラバラにしてから培養(分散培養)すると、99%という高頻度に細胞死が起こるため、細胞数が著しく損なわれるが、そのメカニズムはまったく分かっていなかった。
今回、研究グループは、分散培養したヒトES細胞などを詳細に観察し、これらの細胞が細胞死を起こす前から、特有の「過剰な細胞運動(死の舞)」を示す現象を発見した。その解析から、細胞死と「死の舞」の共通の原因が、細胞骨格タンパク質ミオシンの過剰活性化であることを解明した。
研究グループは、ミオシンの過剰活性化を抑える処理を行うと、ヒトES細胞などの細胞死を回避でき、細胞を効率良く大量培養できることも明らかにした。また、細胞分散が、自殺スイッチ分子であるROCKを刺激することにより、ミオシンの過剰活性化を引き起こすことが、ヒトES細胞などに特有の細胞死を引き起こす直接のメカニズムであることを解明した。
一方、研究グループは、細胞運動の調整因子として知られているRacというタンパク質がヒトES細胞などの生存を促進することも発見した。また、細胞分散がROCKを刺激すると同時に、生存スイッチ分子であるRacの機能を抑制するために、強い細胞死が引き起こされることを明らかにした。さらに、こうした細胞死と細胞生存の制御バランスに異常があるヒトES細胞などを生体に移植すると、腫瘍を形成する頻度が高くなることも発見した。
この研究成果は、ヒトES細胞などの培養をさらに効率化すると同時に、再生医療への応用に必須である細胞の品質管理や安全性の向上に大きく貢献することが期待されている。
なお、この研究は、文部科学省の「再生医療の実現化プロジェクト」の一環として進められたもので、米国科学誌『Cell Stem Cell』(8月6日付け:日本時間8月7日)に掲載される。
「天網恢恢疎にして漏らさず」という故事がある。「天網」とは、天が世の理非を正すために張った網のこと。「恢恢」とは、広く、ゆったりとしているさま。「天網恢恢疎にして漏らさず」とは、天網の目は粗いが決して悪人を逃しはしない、という意味である。永続的なシステムの肝は、それぞれのプログラムは「疎」であるべきといわれている。コンピュータよりも深遠な人体の不思議は、体内の組織がすべて連携をはりめぐらせていることであり、今回の発見もさらなる探究心をかきたてるマイルストーンといえるだろう。
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